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松山家庭裁判所 昭和53年(少ハ)2号 決定

少年 D・I(昭三五・四・八生)

主文

この事件を高松家庭裁判所丸亀支部に移送する。

理由

戻し収容申請の趣旨及び理由は四国地方更生保護委員会作成の戻し収容申請書(同添付別紙(一)、(二)〈省略〉)記載のとおりであるのでこれを引用する。

ところで、少年は松山少年院在院中に逃走事故を起し、その際犯した窃盗等保護事件により昭和五一年六月二二日当裁判所において特別少年院送致決定を受けたものであるが、戻し収容申請の当否を判断するにあたつては、特別少年院仮退院後の生活状況、家庭環境等少年の現状について充分調査検討すべきところ、少年は現在高松保護観察所の保護観察を受けており、少年及び保護者の住居も上記のとおりであつて少年は現在高松少年鑑別所に留置されているところである。従つて本件について少年の保護の適正を期し、かつ迅速に処理するため本件を高松家庭裁判所丸亀支部に移送することが特に必要であると思料し、少年法五条二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 郷俊介)

参考 受移送審決定(高松家丸亀支昭五三(少ハ)一号・昭五三(少)五五一号・同六四三号・同三二二五号・同三五九二号・同三六二〇ないし三六三〇号昭五三・八・一八決定)

主文

1 少年を満二〇歳に達するまで特別少年院に戻して収容する。

2 覚せい剤取締法違反、毒物及び劇物取締法違反、道路交通法違反保護事件については、少年を保護処分に付さない。

理由

1 戻し収容申請の理由は、戻し収容申請書添付の「戻し収容申請理由」記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

2 少年の陳述および本件関係記録によれば、次の事実が認められる。すなわち、少年は、

(1) 昭和五〇年七月一六日、高松家庭裁判所において窃盗保護事件により初等少年院送致決定を受けて松山少年院に収容されたが、同院に入院中教官に傷害を与えたうえ同院を逃走し、昭和五一年六月二二日松山家庭裁判所において公務執行妨害、傷害、窃盗、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反保護事件により特別少年院送致決定を受けて新光学院に収容され、その後中国地方更生保護委員会の許可決定により昭和五二年八月三日同院を仮退院して指定帰住地である高松市○○○町××の××(引受人・雇主Y方)に帰住し、以来高松保護観察所において保護観察中のものである。

(2) 上記仮退院に際し、同委員会から決定遵守事項のほか、特別遵守事項として、(イ)引受人のもとに落着き真面目に辛抱強く働くこと、(ロ)無断で転居、転職しないこと、(ハ)他人の物に手を出さないこと、(ニ)保護司の指導・助言に従うこと等が定められ、その遵守を誓約した。

(3) 昭和五二年八月九日前記雇主であるY氏の承諾をえて観音寺市○○○町の実母のもとに一時帰省したが、不良友人であるA方で外泊し、同月一二日雇主宅へ帰つて来たものの、同月一四日には右Aらと共に仲多度郡○○町所在の○○川堤防上においてシンナーを吸入して警察に補導され(右は毒物及び劇物取締法違反保護事件として送致され、同年一二月一四日高松家庭裁判所において不処分決定)、さらに同年八月二〇日から二三日までの間無断外泊をして帰宅せず、雇用先を退職することを余儀なくされ高松保護観察所のあつ施により同月二六日○○産業株式会社(高松市○○町)にトラック助手として就職するに至つたが、就労意欲は乏しかつた。

(4) 昭和五二年一〇月一五日、秋祭りで母親のもとに帰省中、些細なことで喧嘩をして腰部を殴打され、同月一九日○○病院に入院したが、見舞いに来た友人らと共に同病院内で夜遅くまで騒いだり、シンナーを吸入したりするなどしたため、同年一二月七日同病院からの退院を余儀なくされ、同月九日別紙一記載のとおり無免許運転を敢行し(当庁昭和五三年少第三二二五号)、その後も復職することなくシンナー吸引をくり返し、無為徒食の生活を送つていた。

(5) 昭和五三年一月二一日、愛媛県川之江市○○○町において、友人らと共に暴行事件を犯し(暴力行為等処罰ニ関スル法律違反)、少年鑑別所に収容されたが、同年二月一四日高松家庭裁判所丸亀支部において審判のうえ検察官送致の決定を受け、同月二一日罰金三万円に処せられ、即日釈放されて実母のもとへ帰宅するに至つた。

(6) 右釈放後、前記○○産業株式会社を正式に退職し、昭和五三年三月初めごろから、叔父○方で海苔の養殖の仕事を手伝つていたが、同月二一日別紙二記載のとおり覚せい剤取締法違反事件を犯し(当庁昭和五三年少第五五一号)、同年四月末ごろには右海苔養殖の仕事もなくなり、以後担当保護観察官および保護司の指導・助言にもかかわらず、またも不良交友に耽り、就労することなく無為徒食の生活を送るようになつた。

(7) 昭和五三年五月一〇日ごろ、別紙三記載のとおり道路交通法違反事件を犯し(当庁昭和五三年少第三五九二号)、次いで同年六月一八日には別紙四記載のとおり連続して道路交通法違反事件を重ね(当庁昭和五三年少第三六二〇ないし三六三〇号)、さらに同月一九日別紙五記載のとおり毒物及び劇物取締法違反事件を敢行するに至り(当庁昭和五三年少第六四三号)、同月二〇日には担当保護司に無断で、かねてより交遊のあつたB子を訪ねて大阪へ赴き、同月二四日一旦帰宅したものの、翌二五日再度無断で家出し、以来同年七月二六日までの間、担当保護司に何ら連絡もせず、B子方(大阪府吹田市○○○××の××)で同女と同棲生活を送つていたものである。

3 以上の諸事情からも明らかなように、少年は担当保護観察官および保護司の指導・助言に全く服することなく問題行動、非行をくり返し、法定および特別遵守事項に違反してきており、少年の非行性は高度に深化しているものといわざるをえず、本件調査記録および鑑別効果通知書に指摘されているとおり、少年の性格や行動形式は固着化しつつあり、社会と協調するよりも、周囲を無視して、独善的に行動する傾向が強く、少年の価値観にはヤクザ親和性もみられ、少年の矯正はかなり困難な段階に来ているものというべく、もはや在宅保護によつて少年の改善・更生を図ることは到底期待しえない。しかしながら、少年は本件審判においても再起の決意を訴えており、上記性格および行動形式もいまだ完全には固着しておらず、少年がいわゆる保護不適の状況下にあるとまではみなすべきでなく、この際少年を特別少年院に戻して収容し、再度厳格な規律ある生活経験の中で上記性格および行動形式の改善を図り・勤労意欲と社会適応性を涵養することが必要であると思料されるので、戻し収容の期間を満二〇歳に達するまでとし、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、三七条一項、少年法二四条一項三号により主文第一項のとおり決定する。

なお、本件保護事件は戻し収容申請事件と併合審理し、すでにその理由ともなつているものであるから、もはや保護処分の必要性は認められないので、主文第二項のとおり決定する。

別紙

交通事件原票(番号二六一一九四)記載の犯罪事実のとおりであるから、ここにこれを引用する(昭和五二年一二月九日、自動二輪車による無免許運転)。

2 少年は、CがDから昭和五三年三月二一日午後七時三〇分ごろ観音寺市○○○町○××××番地所在の喫茶○○○○においてフエニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤粉末約〇・一グラムを譲り受けるにあたり、同日午後一時三〇分ごろ、同所において、Dに対し、同覚せい剤粉末を持参すべく電話連絡をなし、もつて右Cの犯行を容易ならしめてこれを幇助した。

3 司法警察員作成の昭和五三年七月二〇日付送致書記載の犯罪事実のとおりであるから、ここにこれを引用する(昭和五三年五月一〇日、普通乗用自動車による無免許、あて逃げ)。

4 交通事件原票(番号二七一二〇二ないし二七一二一二)各記載の犯罪事実のとおりであるから、ここにこれを引用する(昭和五三年六月一八日、番号二七一二〇二は自動二輪車による無免許、速度超過、番号二七一二〇三ないし二七一二〇七はいずれも通行区分違反、番号二七一二〇八、二七一二一〇、二七一二一一はいずれも信号無視、番号二七一二一二は安全運転義務違反)

5 少年は、昭和五三年六月一九日午後零時三〇分ごろ、三豊郡○○町○○○○○××××番地所在の○○町役場前路上に駐車中の普通乗用自動車(○×の××××)内において、麻酔の作用を有する毒物または劇物であるトルエンおよび酢酸エチルを含有する接着剤をビニール袋の中に入れて吸入した。

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